菜の花が見えない/藤鈴呼
カモフラージュされてしまうほどのオレンジ
大抵の人間が「夕陽」と呼ぶ現象が訪れる頃
少し冷たくなった風が そよと吹きかければ
花びらは ゆっくりと お辞儀をし始める
隣に似合うのは かすみ草くらいだが
あろうことか ここに自生するは ネコヤナギ
昔 防波堤が出来る手前で
土に映えていた 必死の形相が 愛しくもある
もふもふとした毛並は 能面のよう
小さな枝の中に刻まれた年輪が
誰かの表情のようにも思え 身震いがした
未だ強い北風から 逃げるように走った帰り道
世界が夕暮れに包まれる寸前
黄色の元気一杯さが 憎らしかった頃
春の倖せそうな色合いが 大嫌いだ
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