足跡に名札がついたことはない/ホロウ・シカエルボク
 
だ、おそらくはコンピューターのそれよりも、ずっと複雑なシンプルさを求めて…ヒトの言語は数式の配列ではない、それは強いていうなら感情の化石の陳列だ、ガラスすらない陳列棚の上に、ろくな分類もされないまま捨て置かれてゆく。名前もなく、名札もない。ライトアップされることもなく、一般公開されることもない。そこにそんなものが陳列されていることなんて誰も知らない。おれだってそのすべてのことは判らない。ただ反射的な年表のようにそこにあるだけだ。特に手を入れられることもないけれど、それは朽ちることがなく、色褪せることすらない。ただそこにあることを忘れられてしまうだけだ。誰もが時折自分自身のことすら忘れてしまうように。だからおれは薄汚れたスニーカーに足を突っ込んで歩き続ける。それはここにある、それはここで並べられていると、声ならぬ声が囁くのを聞き逃すことのないように。

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