首吊りの森/田中修子
う合図だろう、そうなのだろう、青い蝶、私に立ち止まることは許されないのだろう。
グチャリ、といやな音がして、目の前にもう人ではない人が落ちてきた。
腐ったにおいにまさっていいかおりがした。甘い、バニラの、ばらの、はっかの、海の匂いのする。
あの子が亡くなる数日前にあげた、誕生日プレゼントの入浴剤のセットのにおいだった。けっこう高かった。ほんとうは自分が使いたかった。それでもあの子にあげたかった。
ネットで知り合った子で、手紙や携帯電話のやりとりは何度もした。
「私、砂漠で走ってるみたいなの。いっしょうけんめい走っても絶対に転んで大怪我をして、どこからきてどこへむかってい
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)