一人の女優に捧げる詩/ただのみきや
さえも
ありがとう
あなたが狂気を演じ切ることで
わたしの閉ざされた狂気は軽くなった
あなたは代って表現してくれた
叫び方を忘れた者のため
鳴き方を忘れた鳥のため
かぼそい声を 嵐のように激しく揺らし
叫んでくれた いつも声を嗄らして
隠した言葉を
言えない言葉を
弱さも 恥ずかしも
あなたにそんなつもりはなかったとしても
あなたがただあなた自身のため演じたのだとしても
――ありがとう
十七歳の頃あなたの歌声に恋をした
多くの人と同じように ただその風変りさに
いま三十年以上の歳月を越えて
もう一度あなたに恋している
過去から少しだけ近づいて
あなたを見つめる数えきれない瞳の中の
六等星にも満たない 決して見えない
遠くで燃えているだけの
《一人の女優に捧げる詩:2017年5月10日》
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