燃えるものがない/燃やすものがない/五十嵐 敬生
燃えるものがない
燃やすものがない
燃えようとする心だけが
かろうじて生き残ろうとするとき
ぼくの指先はペンを握りしめる
ああ白紙には危険な文字が溢れている
白紙を汚そうとするとき
ぼくは文字の奥の血の存在に慄える
すでに書いてしまったことはぼくを狂わせない
ぼくは言葉の使徒ではない!
ぼくは感覚の使徒なのだ!
夢にふさわしい文字を選びながら
ぼくは神のような惨敗者になっていく
ぼくの奥で処刑される数々の解説よ
ぼくの分身よ
ぼくはいつもぼくの極地で狂っていたい
ああ深淵の果てから危険な文字がやってくる
最後の一語がぼくを支配するときぼくはこの世から重
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