濡れた火の喪失/ただのみきや
 
ろがして 甘ったるく
溶け去るものばかり
自らに帰した
ひとつの遊戯


回り道をした
何度も同じ道を 忘れたふりをして
彫刻のような額を覆う 両の手の
乾いた土くれは 崩れ落ち 枯れ果てた根は顕わ
再び雨に打たれても もう 
なにも感じない


すでに起きたのか
これから起きることか
今朝 街路樹はムスリム女のよう
目には見えない蜻蛉が∞になって
命を繋いでいるのか 光が 少し捲れ
余所余所しくそよいでいた


疑いもなく 死にたがり屋の目が
懐かしい男が 景色の隠喩の向こう
焼け焦げた音楽のように笑っている
揺らめく姿を掴み損ね 
溺れる匂い
振り向けば 扉は閉じて





               《濡れた火の喪失:2017年5月3日》








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