濡れた火の喪失/ただのみきや
 
すでに起きたのか 
これから起きることか
おまえの吐息 ひとつの形のない果実は
始まりと終わりを霧に包み
不意に揺れ 乱れても 損なわれることのない
水面の月の冷たさへ
わたしの内耳を しなやかに しめやかに
遡上する 視線を潤ませた青い蜥蜴のように


網の目を潜り抜けた
こころとからだ その糜爛した垂れ幕の
衣擦れよ
死産した喃語
干からびた嬌声
螺旋に封じられたまま
不在の真珠からほとばしる幻の海 骨灰よ


分別もなく癇癪持ちの子供になって
幸福のあらゆる模型を壊し尽くす
御守り袋の中身を次々と引き出して
飴玉の包みを剥すように
舌の上でころが
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