枳殻の花/伊藤 大樹
 
シンクの窓から
光が生まれている
質量はないが
手触りは淫靡だ

わたしたちは渇きやすいから
眠りの岸辺に
傷だらけの素肌をさらす
思い出せない言葉に囲まれ
猫の亡霊を見た──まひる

スタッカートする点滴を見つめ
やさしさの舟を編んだ
心の停車駅に
誰も乗っていない列車がやってくる

飲みさしの牛乳
と ほのかにくすぶる煙草
庭に枳殻の花が白い
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