【批評ギルド】 『I氏の走り書き』坂田犬一/大村 浩一
 

なければならないか、その良い見本だと思う。
 自分に向かってひたすら降りてゆく事で、逆に他者へ相い通じる回路を見
い出す…その僅かな可能性に賭けられるかどうかが、その人が詩人かそうで
無いかを分ける境目だ。
 詩人である事自体は、世間的には決して救いのある事では無いのだが。

 表現技法の面では、分かり易い単語でサッパリと仕上げ。短めの行と有る
か無きかの脚韻で、独特の自律的なリズムを作り出している。
 但しこの辺の技巧は、無意識に繰り出されたものだ。その程度に留めなけ
れば、こういった詩では逆にウザい。
 この詩人はもっと自分に忠実でいて良い。もっと出来の悪い詩もあってい
い。読者にとっての口当たりの良さとか、ありきたりな社会通念とか、そう
したもので自分を曲げる必要は無い。予想出来る様な前置きや説明なんか省
略して、いきなり本題に入ってどんどんデタラメに世界を広げてしまえばい
い。常識的な人なら、その位で詩としては丁度良くなる。
戻る   Point(8)