雪原の記憶/山人
球ボール程度にしか見えなかった。だが、当たらない距離ではない。結局、誰が悪かったのか・・・。あまり深い追求はしないにしようと相成った。
しかし、熊と言う生き物の凄さを改めて皆が知ることになっただろう。隅安はあれから小1ヵ月も入院し、その後仕事に復帰した。彼を襲った熊は、事故後数時間で穴から出てきたところを捕獲された。
自然環境保護員でもある私は、三月、ネズモチ平を目指し、カンジキで歩いていた。
私の目の前をウサギが飛びだして走りぬけていった。
BOWBOW!、銃をイメージしウサギを撃った。
タイミングよく、ウサギは雪原に横たわり、痙攣をしながら息絶えていた。
私は即座に、腹の毛をむしり、ナイフを突き刺し、横隔膜の中の血を吐かせ、肝臓だけを残し、腸や胃や膀胱を手で取り出して捨てた。
あたたかいというよりも、熱い。先ほどまで生きていた、躍動していた、逃げるという事に集中したウサギの命の末路が未だ温度として残っていた。
私は血液のついた赤い手を雪で洗った。
銃のない私は、想像していた。あたたかい血や、内臓の剥ぎ取られる瞬間を。
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