雪原の記憶/山人
熊狩りのことを「シシ山」と言った。このシシ山は、狩猟人の集大成とも言える猟だ。
チームワーク、勇気、あらゆる力が試される場であった。
小黒沢地区では、最長老の板屋修三氏の自宅がシシ山の本部であった。
現場のリーダーは最近選任された村杉義男氏。板屋氏は既に八十を越えており、村杉氏も七十近い。村杉氏の補佐や助言役として、私の父や元森林官など五名ほどが取り巻くと言う図であった。
熊の捕獲には、指示役・勢子・鉄砲場の三種類の役目がある。指示役が熊の位置を把握し、鉄砲場に熊が向かって行くよう勢子に効率よく熊を追わせる。熊が追われて逃げる地形はおおかた決まっていて、鞍部(稜線中の凹んだ場所)や
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)