風土/白島真
 
たあの風土
駅裏の暗い雑貨屋で和独楽(・・・)を買ったあの風土
銭湯横の野原、町内交流映画上映のあの風土

いま全ての風景は消滅し
記憶の中で七行の風土はそそり立っている
しかし風土が失われたというとき
わたしの眼と口は寡黙な扉となる
近代化した建物の硬い鋼材を爪で掻き
大量消費社会という言葉の皮を剥がしていく
季節には季節の花が開花するように
近代を容易く受容した土壌そのものが
わたしの東京 わたしの風土 
造花に絡めとられた己自身の姿であった

本の中のあなたがたの風土なら知っている
そこにはわたしの部屋もあって
帳簿を抱え老獪な薄笑いを浮かべた官僚や
逆さまに花を植える子供らが出入りしている

いま東京をすて、小さなこの地方都市で
扉を開け新たな風を入れ土に触れる そして      
風土を肉化する晩年という時間が来ている



戻る   Point(12)