見えない満月/AB(なかほど)
 
ありふれた新月も満月も
見上げることもなく家路に急ぐ僕ら

ただいま
とは言うものの
おかえりとは言うものの
すぐにテレビやモニタの光に飲み込まれ


朝の目玉焼き
月みたいだねって言ってた頃の
ほんとの月も
ほんとのただいまもおかえりも
見えない

見えないけど



思い出してみよう
と思う
それは
握りしめた手の中に
閉じたまぶたの向こうに
しゃがみこんだ君の足もとに
あの子の足もとに
ベッドに倒れ込むように
眠りについた僕らの夢の中にも
ある
今でも
ある


今でも

月はまあるく
まあるく光っている
そう
思えたら顔を上げてごらん
そうしたら今でも
って



僕らは
僕らに戻って
月はまた
月になる






即興ゴルコンダより



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