へび坂/田中修子
 
とき黄色い滑り台に吐いたのは羊水だった。羊水を吐く前、世界と私に境目はなかった。私自身が一瞬目を離すと散っている花、からだをつらぬく雨の音、どんなに背伸びをしてもつかめない空、れんげのにおいのする祖母、そうしてへび坂だった。

祖母がこの世を去って十五年以上たついまも、へび坂は苔と羊歯の色を濃くし、舌舐めずりして飲み込んだ赤ん坊をこの世にはなちつづけている。そんな産道は、ほんとうはそこかしこにある。
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