春と詩はよく似た病と嘯いて/ただのみきや
 
コーヒーをかき混ぜるとスプーンが何かに触れた
すくい上げると 懐かしい腕時計
そっと指でつまんで 見る――当然死んでいると思ったが


――蘇生するような
        秒針の震え!


ゆっくりしてはいられない
レモンみたいに眩しい真昼の駅でおまえが待っている
約束通りあの世往きの汽車に乗って
なにも死ぬ訳じゃないさ
時の透けた被膜を∞に破り続けて意識が気化するまで
一緒に旅をする約束だから
樹海が窓の下まで押し寄せて
波の音が足裏を濡らしている
急いで着替え 本とレコードを鞄に詰めて……


――突然ぶるるっと震え 
         魚は逃げた

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