情緒メイトリクス/倉科 然
世界一きれいな花が荒野に一輪咲いた日
空は透き通る様な青と油絵みたいな白い雲が浮かんでいた
その十年前そこは殺戮と強奪で燃え上がっていた草原だった
善意で負傷兵を助けた少女の頭を吹き飛ばした隣国の兵隊
慈悲深い少女を殺した人殺しは負傷兵の不意打ちで
心臓に穴を穿たれて倒れた
いつしか戦いは終わりを迎え
負傷兵と少女の亡骸は火葬され黒い煙になってそして星になった
人殺しの死体は焼けた大地で
雨風にさらされて土になった
十年かけて焼けた土の上には草木が生い茂り
一輪の花になった
少女の頭を吹き飛ばした人殺しの死体は長い時間を経て
世界一きれいな花となった
殺人者が花となり少女は星となり
そして負傷兵は青空になった
三人は奪い奪われ助けて助けれ殺された
彼らは彼女らは一つの風景となりきっと一つだけでは
構成し得ない景色となった
尊い景色となった
今私の頬を撫でる風が
今私が立つ大地が
アスファルトに咲く花が
誰かの人生なのかもしれない
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