あんずと朝/串
東の果てから顔を出す太陽があなたの眼の色と同じでよかった
まるくて熟れたあんずの実をとなりに並べたら、あなたとあたしは似たもの同士
果汁の一滴も、種まで残さず食べ尽くしてくれませんか
大丈夫です、致死量には到りません
真似事みたくイヤホンを片方外して、朝の始まりの音をきく
遠くからかすかに聞こえるバイクのエンジン音
朝刊が投げ込まれてかたんと音を立てるポスト
牛乳瓶が互いにぶつかる音
雀はまだ鳴かないね
真っ白なシーツを干して新たな朝への祝福を
お腹が空いたならあたたかいスープをよそおう
朝は誰にも等しく訪れるものだと少女の頃のあたしは信じていた
ずっと遠くの凍える国では、日が昇らない季節があるらしい
始まりも、終わりも訪れない単一な黒い真昼
姿を現すことを許されず、地平線の下でしずかに揺らめいている陽はどんな色かだれにも知られることはない
いつしか均衡が破られるとき
その境目を告げる、燃えるような橙に溶かされたい
網膜を焼かれるその前に、最後に焦点をむすぶものがあなたでありますように
戻る 編 削 Point(5)