猫屋敷/春日線香
魚臭い家を出て用事を済まし
いくつか由緒のある品々を眺めて帰った
金泥で書いた文字を
猪の牙でこすって輝かせるなどという
今は滅びた技法で書かれた経典を懐に入れて
額に皺寄せて家に戻ると
朝出てきたときよりも家が「膨らんで」見える
というより「ぱんぱん」で「破裂寸前」なので
どんな妖怪変化の仕業かとおそるおそる玄関を開けると
毛むくじゃらの大猫がみっしりと詰まり
身動きひとつままならない様子
(窓から伸びた尻尾は優雅に振られている)
ここぞとばかりに懐の経典を取り出して読誦すれば
効果覿面
すうっと透明になりかけたはいいが完全には消えず
ちょっと与し易くはなったかなと
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