塩の柱/白島真
さえ見えていないのに見たと嘘をつく人、フリをする人、気が付かない人 そんなのは蜥蜴が尻尾を切って爬虫類から哺乳類に進化するほどの事件じゃないんだ 死んでしまえばいくらだって眠れるんだからね
もしこころがひとつの建造物だったらもっとずっと透明な柱を打ち込むはずだったのにもっとずっと偽らない部屋をつくるはずだったのにといくら悔やんでもぼくは未だ塩の柱じゃないから苦い海水はもう飲まない
書いたもの、書かれたもの、投げ捨てられたものそれは大きな冷凍庫に吊り下げられた動物の死骸のようにこれから人の役に立つことだってあるんだとぼくは屋上からさよならと言って飛び降りようとする人が最後に見る月のようにきみに語ってもいいだろうか
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