/ehanov
 
保管の状態が悪いそれは表紙やらを茶色く煤けさせる埃のようなものを纏っていた、永く倉庫に眠っていた武満徹の譜面を叩き起こしたいと思った。
壁というものを作ると、隔てられた先のそれは、隔てられる前すなわちひとつの空間だった頃とは比較が難しいほど、猥雑化する。
ひとたびそこへ位置を移してみれば、何事もなく普段そのままのはずなのに、だからこそ人は壁で隔てた先を、壁に穴でも開けて監視したくなるものなのだろう。
わかりたいということではなく、わからないことへのオブセッションは永劫現在化されえないひとつの観念である。
薄暗い四辻に差し掛かったとき、方向を定めるもいずれ同じ場所へ立ち戻っていくような、徒労である。
いままでは現れていなかった、壁の苔が静かにその範囲を拡げつづけているにもかかわらず、未来のどの点でそれが発見されるかは、今はないがしろにすべき問題だ。
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