/ehanov
鳥が一羽、鳥籠から離れていったので、雨の日にでも中州に取り残されたいと、小指を曲げる。
3年前ばかりを思い出す。それはオレンジ色で暖かく、とても安らぐ香りをしている。あの頃はどうしようもなく好きな人がいたから、原色のような色彩が強く残るのか。とにかく思い出すと、安らぐ。天国のように佇んでいる。
明日になればもうなにもかも忘れていると思いたいことが、あらゆる視点からこちらを指している。銃口みたいだと感じる。捨て去るものを捨て去らなければ、発砲されるだろう。引き金を引く指は、恐怖心と連動した痕跡がある。
目を瞑った先の暗がりに、言葉の淡い残像が冷たく染みていたからか、ロシアの女性彫刻家の、首のない人の像が本当のことをひとつだけ携えて、笑っていた。
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