けむり ゆくえ/木立 悟
冬山にかがやく
家の幽霊
影の十字
重なりの剣
窓ごとに異なる時間が溢れ
こぼれるものは湖に向かう
灯に照らされるたび
消えてゆく波
はざまの羽音
数秒の夢
忘れを忘れ
残る幸福
路の終わりを
陽は転げ落ち
霧の筆致が見えてくる頃
金の粒は聞こえ出す
水を囲む山のむこうを
焼けくすぶるけだものが過ぎ
捨てられた化石 捨てられた傘
たなびきつづける背を見つめる
氷に映る枝の影
彫られたように動かない
氷が融けて流れたあとも
多くの血が乾いたあとも
水たまりの縁に群がり
けだものを見送る羽
煙りつづける行方には
生きている街
死んでいる街がまたたいている
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