糸巻き/DFW
 


開け放した玄関はその年の夏そのものだった
わたしはサンダルをつっかけて座り
水羊羹をのせた小皿を手に女をみていた

わたしを産んだ女は真剣な表情で
庭の手入れをいそいそとこなし
ときたま膝と腰を気遣っていた
わたしは手伝いもせず水羊羮を菓子切りで食べ
夏の陽射しに女の輪郭がかすむと
女が女を描くときの透けたタッチによく似てみえた

小さかったわたしに絵本を読んでくれたとき
わざと寝たふりをしても女は絵本を読み続けていた
わたしは大人になるのが恐いのだと女に伝えて
女に連れまわされる先々でいつも怯えていた
あんたまた一つ強くなったねと女はわたしの頭をなでた

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