命の題名/水宮うみ
初めてなんて忘れてしまった。いつの間にか僕は名前とともに生きていた。
こどもだった頃、海を初めて見たときも、初めて山に登ったときも、特になにも感じなかった。
こどもは詩人だ、と言う人もいるけれど、少なくとも、こどもだったときの僕は詩人ではなかった。
今は近所の景色を眺めるだけでも楽しい。川の流れをただ眺める為だけに出掛けたりする。
そうやって外出しているときにふと言葉が浮かぶことがある。その言葉は僕にとって斬新で、いつも忘れないようにメモする。
そういう言葉がメモ帳にたくさん残っていて、眺めていると時折ハッとしたり、こっぱずかしく感じたりする。
それらの言葉のどこかに、命が宿っていればいいな。
僕にとって、初めての言葉が僕の名前で、僕の名前が僕という命の題名だ。
僕という命の最後の一行を、見つけ出すまで僕は僕であり続けたいと思う。
戻る 編 削 Point(0)