朝の情景/梓ゆい
雨の降る朝
赤い長靴をそろえた玄関に
少し履き潰した黒い革靴。
傘の手入れをする父は今から一人
単身赴任先の東京へと向かう。
靴を履き襟を正す
背広姿の父の横には
母の握ったおにぎりが三つ
綺麗に包まれて置いてある。
「また来週になったら、帰ってくるよ。」
ランドセルを背負い
バイバイ。と手を振る娘たちを見つめる瞳は
何故だか少し寂しそう。
惜しむ眼差しを向けていると
車のエンジンをつけた母が
電車に遅れるよ。と父を呼んでいた。
庭の片隅には
昨日咲いたばかりの紫陽花が
車に乗り込む父を送り出すかのように
花びらを玄関先へと向けている。
少し雨脚が強くなる6月の朝
おそろいの長靴を履く娘たちは
父の乗る車を追いかけて
再び大きく手を振った。
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