クレマチス/嘉野千尋
 
  痛みを痛みとして見つめながら
  あなたは眼差しを地には与えず
  自分だけの痛みだと言って、
  誰かに分け与えることさえしなかった

  
  花びらは凛として
  項垂れることへの恐れからは遠いところで
  外へ向かって開いていました
  今もかわらず、わたしの眼差しは内へと注がれたままです


  苦しみを乞い、
  裸足で歩いていくことを望みました
  それでも飲み込みきれない感情が取り残されていくことを
  わたしもすでに知りました
  

  騒がしさを嫌って目を瞑る愚かな日々にも
  指先に鋭く感じる光のように
  知らぬ間に積み重なりながら
  いつか崩れ去る一瞬を待ち構えているものが確かにあり


  苦しみを、苦しみと呼ばず
  痛みを、痛みと認めず
  ただ孤独に満たされる一瞬にだけ、
  悲しみに似た穏やかさの中にあなたの姿があったのです


  クレマチスの花でした


  わたしも、あなたも
  日差しに焼かれながら影を投げる
  一輪のクレマチスの花でした




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