参道/はるな
 
こでも眠った、歩いているときも、授業中も、ピアノのレッスンの最中にさえ。塾もピアノもない夕方に眠って、起こされると夕飯ができている。あるいはもうすでに家族は食べ終えて、自分の分だけが残されている。あの奇妙な喪失感。自分だけ違うところから連れてこられたような、自分だけが色あせたピースになったような浮遊感。

ほら、ままおこしておいで。
うんはーちゃんがおこしてくるよ。まま、おこしてあげようか。
むすめがそう言いながら腕をひく。まま、おこしてあげようか、あれ、うごかない。あれ、あれ、おかしいな。
だんだん泣き声まじりになる言葉と、表情がぴったりくっついている。
ぴったりくっついている、というのは貴重なことだ。貴重で美しい。
以前、幸福は存在する、と思った。それはときどき思った。幸福は種みたいなもので、水とか土が必要なのだ。そして時間も。いまは、実在する、と思う。実在して、わたしの腕を、起きて起きて、と引っ張るのだ。


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