夕暮れの あんドーナツ/藤鈴呼
 


砂糖をまぶしただけでは飽き足らない
ただの揚げでも駄目だ
それは 魚くさいどころか
水くさいくらいの
懐かしさに 満ちていて
目を閉じても 浮かんで来る程
青空に 近い 雲のような 存在だった

中身なら
出来るだけ 詰まっているのが 望みだろう
頭だって 然り
だけど 口ずさめば ハミングだと
認められる わけでは ない
そういうことばかり 口走っては
窘められた

手で制されてしまえば
向こう岸へ 渡ることなど 出来ないから
すり抜けようとして 空間を 探す

長いばかりの 葦の 向こう側
そっと伸ばすは 左足
どうして?
うん、私、右利き
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