浅瀬のクジラ/青の群れ
 
打ち上げられた六百頭のクジラにナイフを刺した
どうしようもなく大きなかたまり
どうしようもなく身を投げた人の命が溶け込んでいるから
潮の匂いは生の匂いがする

冷えた肉体をプランクトンが分解をはじめれば
言い訳のように糧となってこの世に痕跡を残していく
たとえば恋心なんかも、海に飲まれてしまうだけで、どこかに沈み込んでいるだけで
そんなロマンチックなことばかりじゃないけど
そんな風に泡になって、消えてなくなることなどほとんどのものができないから

まさかナイフを突き刺すことで救済されるとは思ってもいなかっただろうね
だけれど人間は生きるために腹を割くこともあるでしょう

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