あっちむいてホイ/末松 努
 
た子どもの寝息を 聴くこともなく
発泡酒を飲んだあとも 溜息すらつけない 夜を過ごす

気がつけば 獏の鼻息が 傍に聞こえる
食い尽くしたであろう 夢を まだ待ち構える視線が
「あっちむいてホイ」と言っている
差し出すことに怯え 頸を曲げられなかったので
両手を挙げ 白旗をあげ じっと耐えた
あと少し 夜が明ければ 獏は消えているだろうが
「あっちむいてホイ」禁止が 発令される朝が 来る

誰もが 目を合わせ なければならず
調子を合わせ なければならない 日々の なかに
いなければならない 生存の 本能が
指の示す方向へ 顔を向ける 従順さを
嘘と同じ 色で 冷めた空気に 上塗りしていく
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