希望について/カワグチタケシ
 
して聴覚を研ぎ澄ます。雨や風に機械音がかき消される朝は、支柱に耳をつけて観覧車の声を聴く。仕事を教えてくれた前任者は医療用の聴診器を使っていたが、私は冷たい支柱に直接耳たぶをつけるのが好きだ。
 2周目はゴンドラの中から、地表近くでは聴きとりにくい、高い位置の音に耳を澄ます。機械油が減っていないか、ボルトに適度な弛みがあるか、慣れてくるといろいろなことがわかるようになる。最初の数回同乗した先輩には、視野の小さな変化にも集中するように言われた。
 
 朝の点検乗車を始めて2週間が経ったころその意味が分かった。観覧車の頂点から見下ろした防砂林にいつもの朝とは違う不穏な変化を感じたのだ。
 はじ
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