吟遊詩人/ただのみきや
 
毛虫の襟巻をした男が蝸牛の殻に腰をかけている
鼻にツンとくる冷気
上着の内ポケットを弄って
煙草――かと思えば
むかし別れた恋人の
薬指の骨ひとつ
飴色の思い出を
こころなしやさしく
――咥え
太陽が雨水に跳ねた八月の心拍を
蛇腹を開いてシロ・クロ・クロ・シロ・
見開いた目もクロ・シロ・シロ・クロ・
「声を持たない吟遊詩人よ!
冬女夏草が叫んだ
「わたしは空を孕みました
「時間のヤツが意地悪く捻じれたのです
視線は粉末になって暗い流れに降り注ぐ
空白は男を見ていた
空白を男は見ていた
肺からは黄色いネンが声を纏わないまま
意思が放棄した赤錆びて膨らんだ釘を震
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