夢夜、二 「春祭りの日に」/田中修子
開けた。まぶしくて目をしばたく。やわらかな陽の光、そうして花の香りが満ちる。
私の目の前に、豪奢な赤い絨毯が引いてあった。
その先には牛のいない、つややかに光る牛車が待っていて、扉が開いている。
絨毯の両端には、黒く艶やかな肌の異国の奴隷がズラリと並び、
「トキガキタ、トキガキタ」
と歌い舞いながら、籠に入れた紅や白の梅の花を惜しげなく空に舞い上げた。
「ドウゾ牛車ニオ乗リニナッテクダサイ、王宮カラオ迎エニアガリマシタ」
中でも位が高いであろう侍従がうやうやしく私にお辞儀をした。紅と白の梅の花びら、ひらひらと私の上に舞う。
祭りがあるはずの広場は他に誰もいない。
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