夢夜、二 「春祭りの日に」/田中修子
 
のように、梅の花は毎年咲くようになった。

 次、私は平民の男として生まれた。物ごころついたころから、なぜだか、王家を滅ぼさなければならないという強い信念を持っていた。私は春祭りの日に革命を起こし、城にまで侵入した。その私を王家は、やっと私たちを殺してくれると涙を流して迎えた。私はすべてを思い出し、その場で自害した。
 霞む目の中に、かなしみにむせぶ夫の顔を忘れない。

 次も、次も、その次も、傾いていくばかりのこの国で、私は幾度も王家を滅ぼそうと、この苦しみから夫を、家族を解放しようと生きて死ぬことを繰り返した。すべて、春祭りの日だった。

 -そうして数十年が経った。
 年老いた私の体には力が入らず、夫に静かに見守られながら、あたたかな湯船にひたっている。湯とともに、ちりばめられた梅の花びらが体にゆるくまとわりつく。黒い肌の奴隷が、しゃらんしゃらんと鈴の音をさせながら静かに舞う。
「また、必ず、来ます」
夫の目を見ながらささやく。
「きっと、あなたを、殺しに。春祭りの、日に」
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