糖蜜の街/そらの珊瑚
 
りました
オルガンのペダルはもどってきません
あんなに蜜が好きだった蟻も
どこへいったのか一匹も見かけません
磁場を失った空で
渡り鳥は渡れない鳥になりました
この街の上を迷走する風も
糖蜜の甘すぎる匂いを身に着けてしまいます
どこもかしこも人間さえも
糖蜜のやわらかな手からは逃げられないのでした
糖蜜がすっかり街をおおいつくしたころ
街全体は溶けだしたろうそくのよう
一番高い塔のてっぺんに
小さな灯りがともりました

雪が溶け
あたたかくなった時こそ
気をつけなくてはなりません
春の爆弾にスイッチが入る季節なのですから


今夜も坊やはママに
お気に入りのあの絵本を読んでとせがんでる
ちゃんと歯磨きをしたのに なぜか
かすかに甘く匂うベッドで





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