宝石箱/梓ゆい
まっすぐに見つめたレンズ越し
君はもしかして気付いていたのかな?
少しだけ見つめ合って視線を逸らした夏の夜
小さな欠片ほどでも良いから覚えていて欲しかったと
心の片隅に置いたまま。
遠くから歩いてくる君に向かって
声をかけることが出来たのなら
すごろくのコマをまた一つ動かして
しまっていた気持ちを伝えられるような気がして
顔を上げて歩く君に向かってゆくよ
今度こそ大切な一言を伝えるために。
隠さなければならないと思い知らされて
わざと作り上げた道化の顔
無理をしなくても隣にいられたのなら
きっともっと笑顔を見られたような気がして
もうすぐ横を通る君に声をかけたのなら
駆け寄って肩を叩きしっかりと名前を呼べるような気がして
腕時計に視線を落とす君を呼び止めるよ
大切な大切な一言を
君の目を見ながら伝えるために。
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