海辺にて/zitensha
含むんだ!
どれだけ言葉を尽くしたところで、一つの小さな海の喪失を埋めることはできない
一つの小さな海の喪失はぼくらの記憶の喪失
ぼくらの記憶の喪失はほくらの身体の喪失
ぼくらは虚空に漂い、それでいて身体がない
ぼくらは虚無の中を走り、ひたすら鷲掴みにできるものを探す者たち
ぼくらは亡霊
祖国をなくした亡霊
今、ぼくは10月の透明な秋の光の中、湾曲した海岸を歩いている
ひとつの小さな海を弔うために
ここではあらゆるものが丸い
球体の地球の丸さ
風雨に晒された灌木の丸さ
角を落とされたガラス片の丸さ
白浜の一粒の砂の丸さ
丸いものは儚いものだ
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