紙の日/湾鶴
濡れた紙が降ってくる
手で破いたように
様々な容姿で舞い
白く空を遮る
ペタリと壁や信号機に張り付き
人々の頭は皆ライス大盛り
足早に歩く人の足には
待ってくださいとばかりに
大きな紙がブーツに引きずられ
汚くなってゆく
何人も踏んで
小さくなって隅へ追いやられる
なお降り続く
紙
濡れているせいか
繊維が伸びてだらしなく広がる
ここに来て破れたものか
はじめからその姿なのか
わからない
東の空を見上げても
気球は遠く
青年の雲には会えず
世界の果てまで延々と
骨色の風が落ちてくるようだ
さっきまでの居場所を占領した紙は
隙間をめがけ遣って来る
バタベチャと凄まじい音をたて
もはや濡れた紙というより
糊のようになって
町を塗り固めてゆく
こんな日は窓も開かない
せめて文字でも書いてあれば
アーセーベー世界の文字を眺めて
窓ガラスに練習でもしたかもしれない
少女と少年の紙の日
戻る 編 削 Point(3)