慾/少年(しょーや)
 
子供にはキャンディーのサービス。
外の空気の涼しさに、お腹を撫でつつ帰る人達。
ありったけの声を出してそれを見送る店員達。

翌日、その店は営業を始めなかった。
もうとっくに営業時間を過ぎているというのに、誰もタイムカードを押していない。
なのに店の灯りは点いたまま。
昨日の余韻を引きずってまた訪れた客すら、1人も居なかった。
噂を聞きつけて店の前をキョロキョロ見つめる1人の男が、裏口から出てくるエプロンを付けた者の姿を捉えていた。

「あの、今日からオープンですよね?何時からですか?」

「もうこの店は終わりだよ。とっとと帰えんな」

躊躇う男に対して言葉少なにそう言うと、あとはひたすらに目で威嚇した。
怖気付いて足早に去っていく姿を見送るとエプロンを付けたその男は、店中に油を撒いて火をつけた。
まるで、もう用済みであるかのように容易く。

たったの24時間の間に訪れた数百数千というお客と、店のためにせっせと笑顔で汗を流し働く従業員達に致死量の毒を盛った事を知っているのは、この世でたった1人だけ。
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