カンプールへ/狸亭
 
打ちっ放しの白いコンクリートの上で
夜明かししたアンバサダーは
太陽の熱に焼かれていて
扉を開けると蒸風呂だ。

エンジンをかけ冷房を入れると
蚊の群れが舞い上がる
慌てふためいて窓を開け
男たちは大騒ぎして腕を振り回す。

運転手は知らぬ顔の半兵衛
追っても追っても蚊の数は減らない。
身体に纏いつく蚊を叩き潰す。
衣服も手も潰した蚊の血に塗れる。

時ならぬ殺戮が展開された。
血を拭った塵紙の山が積み上げられる。
これは一体誰の血だ
この赤い色は。

無辜の蚊を殺しながら男たちは語り合う
マラリヤが流行っている とか
エイズもある とか
コレラもある とか。

ラクナウからカンプールへ
真新しい白いアンバサダーはひた走る
燃え立つ田園風景の中を
取り戻した文明の安らぎを乗せて。


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