1945、夏、わたしにつながる歴史/田中修子
わたしはきっと見たことがある
祖母の灰色の目をとおしてだけれど
B29がつきぬけるように真っ青な
雲一つない空をはしってゆくのを
疎開するため
汽車で広島を出るとこだった
ちいさな伯母さんの手をひいて
大きなおなかには母がいた
ぎゅうぎゅうに人がつまったすきまのない汽車
息をするのも喘ぐよう
B29の轟音がして
汽車は急ブレーキをかけた
撃たれまいと生き抜こうと
人々は蜘蛛の子ちらし
近くの木々へ
野原のかげへ
わたしにはもう元気がなかったんや
空っぽの汽車にわたしと叔母とおなかの母
三人きり
息が広い
ゆっくり座れる
それだけでもうえ
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