糸をつむぐ女/そらの珊瑚
糸をつむぐ
それはかつて
繭だったものたち
それを産んだものは蚕という虫
それを育んだものは桑の葉
それを繁らせたものは桑の木
ふるさとを発つ時
小さなかばんに
宮沢賢治の詩集と
ひとおりの枝を入れて
プラットフォームの空っ風に見送られ
誰にも祝福されない花嫁となった
新しい地で
女は庭に枝を挿した
ふるさとを捨ててきたつもりでも
そこだけは
地続き
膝をつき耳を当てれば
ささやかな歌が聴こえた
雨だと想った
或いはそれが
自分の身のうちを流れる液体が
反響しているだけだったとしても
想う
大地とは
こんなにも温かであったのかと
やがて
枯れた杭のようだった枝は
根付き
真緑の葉をつけて
春から季節を始めた
女は
世界のすべての素生の色を重ねた
白い
糸をつむぐ
千
切れれば
そこから再び撚りをかけ合わせて
片道切符しか持たない素手で
悲しみの消えないあけくれの中で
どこまでいっても
細く
たよりな気な
糸をつないでいる
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