父が書いた詩/岡部淳太郎
。僕は家族に自分の書いた作品を見せたりはしないが、僕が詩を書いていることは父も知っているはずだ。父が挫折した道を、息子である僕が、いま歩いている。時は継がれ、思いは継がれ、その歴史の上に僕がいる。
僕は発見した原稿をそっと持ち帰り、パソコンのWordに書き写して保存した。そしていま、自分の文章に引用するという形で、父の詩を発表しようとしている。恐らく当時は発表する当てもなかったであろう詩を、父の代わりに発表するのであるが、父はそのことを知らない。父には内緒で、父の詩を人目に触れさせることになるのだ。
現在の父は日がな一日テレビを見て、ぼんやりと過ごしている。そこに詩を書いていた父の面影はない。息子からすれば乗り越えがいのない、だらしない父である。いまや年老いてしまった父の姿を見て、昔自らが書いた詩のことを思い出したりするのだろうかと思って、ふと淋しい気持ちになった。
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