最後の発明その発光・わたしはかなしかった/初谷むい
 
しにキスをする。かたちのよい眉毛。鍋の匂いと彼の唾液の匂いがむせかえるようだ。彼は鍋に何を入れたのだろう。たとえばそれが毒ならわたしは死ぬ。それでもいいと思った。彼がもうこわくなくなるのならそれでもいいと思った。わたしはこのまま処女を失っちゃうんだろうか。仰向けになると窓の外に月が見えた。夜の穴みたい。もしかしたら今までの話はぜんぶ遠い昔誰かに頭を殴られたわたしの妄想で、ヒロサキユウゴに愛はないのかもしれない。たまたま再会した幼馴染とセックスをしようとしているだけなのかもしれない。ありふれた大学生のクリスマスの出来事。そのあとわたしたちは付き合うかもしれないし、ひどいことを言われてなかったことにされるかもしれない。でも好き。それだけはほんとうだ。それならなんかどうでもいいや。顔が離れる。ヒロサキユウゴがくちびるをなめる。たぶん彼はくちびるについたわたしのリップクリームをなめていて、それはすこし甘いのだろう。甘い?と思う。口には出さない。月、いつもより大きいな、と思う。



わたしはかなしかった。
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