うみのほね/田中修子
 
浅黒い肌で、黒い髪の毛で、綺麗な奥二重で、酷薄そうな薄い唇をしていた。腕には美しく筋肉がついていて、私は惚れ惚れとそれを見た。いくつもの暗い傘の花が私たちを追い越し、通り過ぎていく。私たちは暗く深い海に迷い込んだ黄色の熱帯魚だ。
 彼が立ち止まったのは、ロビーに面する窓が割れ、窓が割れたロビーにはゴミが散乱している、使われていないだろう巨大なビルの前だ。
 エレベーターは動かず、非常階段を登っていく途中、うるさいほどの音響で第九をかけているフロアーもあったし、なぜか水浸しの中で数人がヨガをやっているフロアーもあった。その行為をまじまじと見ると危険らしく、彼は私の肩を抱いて早く進ませる。彼の部屋
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