弥栄の空模様/高原漣
 
その日は沼のほとりを走っていた

発動機のささやきを聴いてなお死んだような静けさの水面

見上げればモルガナイトを砕いた砂を撒いた空

レンブラントとマグリットが同時攻撃をかけてくる

おそるべき蒼と茜色と白と灰色と朽葉色の油絵の具を喰って腹を下した名画家の脳漿が空に飛び散ったのか

ぽつりと雫が落下する

枯れ野に雨が降る、雨が降る

鈍色の天井がゆっくり近づく

遠くの雨は灰色に降りそそぐ

斜めに天降る、天降る天幕

黒雲の上に輝く雪塊めいた純白の雲

落日の残照が真横から差し込み

枯れ野をどこまでも照らしている

彼方まで続く道


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