モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
 

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……Kの声が聞こえた。でも、その声は先ほどのように近くからではなく、何か曲がりくねった迷路を抜けてきたような、奇妙なくぐもった響きを持っていた。
 それから、Kがまた二、三言葉を言ったような気がする。心がきしむような音を立てた。そのぎしぎしいう音は、段々、心全体の空気が少しずつ抜かれるかのように、か細くなっていき、やがて、消えた。それから、僕の耳には、外の風の音が戻ってきた。そして、今さらながらに僕は、両手の指をこすり合わせ(これは、子供のときからの、癖だ)、無意識のうちにロック音楽を流しっぱなしにしていたことに気付く。ドアーズだ。ジム・モリスンもまた、どこか遠い場所で歌っていた。そこ
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