モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
 
ぞれの暮らし、部屋があって、一人一人の世界がある。僕の定型化された脳神経の繋がりの中にも、新たな集落が出来る。
人の部屋を見るのが好きだ。世界観が視覚的に、また自覚的に、置かれているものの一つ一つが個人の精神のいろを映し出している。特に、煙草を吸う人と同じ部屋にいるのが好きだ。煙草を吸って、栓もないことを喋る緩やかな時間。楽しいことを貪欲に(傍目には無慾に見えても)あるいは偏執的なほどに、自分の個人的な楽しみを追求する人が、僕は好きだ。
馴れ合い的な付き合い方は嫌い。思いもしないことを言ってしまって、疲れるだけだ。笑顔はひとに伝えるためのものであって、本当に楽しいとき、私は笑わない。


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