吉野(その三)/tonpekep
 
こから山を下りながら、花を愛でる観光ルートが確立されていた。
僕達の選んだコースはかなり上級者向けの花見であったらしい。

どうにか。水分神社の前まで辿り着く。水分神社の境内に上る階段の手前に、露店が出ていて、そこで缶ビールを買って呑んだ。疲労困憊の内蔵に冷たいビールは実に美味しかった。染み入るような、とはこういうことを言うのかと、その冷たいビールは忘れられない喉越しだった。

水分神社の桜は満開で、ときどき小鳥が梢の中で花を揺らしていた。その度、花びらがひらひらと落ちてくる。

バスに戻るよう、場外放送でワタナベさんという人の名前が呼び出されている。
どこかのおじさんが写真を撮ってくれと、境内のスケッチをしている女の子に頼んでいる。
このおじさんがワタナベさんだったら面白いだろうなと思ったりした。

写真を撮りに行った際に女の子の置いていったスケッチを覗き込んだ。あまり上手いとはいえない三色の絵があった。青、ピンク、黒。

スケッチの先には桜と屋根と空があった。
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