インフルエンザに罹る/ららばい
く冷えていて、私の熱っぽさを心地よく解かした。私は背筋がくすぐったくなり、目を開けてしまいそうになるのを必死に堪えた。父が去った後、私はこっそりと体温計を取り出して熱を測った。私の幽かな不安と淡い期待とは裏腹に、いつものごとく熱が上がり切ることはなかった。安堵と落胆がない交ぜになりながら、私は体温計を振った。すると、どこかにぶつけてしまったのだろうか、こつんという乾いた音とともに体温計に亀裂が入り、瞬く間にどろりとした銀色の液体が畳上に零れ落ちた。収まりどころを失ったそれは、畳上で伸びてしまうことも、内に染み入ってしまうこともなく、ころんとした粒状になって転がっていた。私はそれをまじまじと眺めた。
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